バオヴィン旧市街の扇子作り:フエの地に息づく伝統の息吹

ベトナム中部

トゥアティエン・フエ省

Sovaba.travel

更新: 24/09/2026

1. バオヴィン旧市街における扇子作りの歴史と成り立ち

バオヴィン旧市街の紙扇子作りは、この地が南北を結ぶ交易で賑わう貿易港であったグエン(阮)朝時代に誕生しました。商人たちが行き交う活気の中で、紙扇子は暑さを和らげる道具としてだけでなく、フエの人々の暮らしに深く根付いた、この土地ならではの記念品・お土産としても親しまれるようになりました。

何百年もの歴史の変遷を経て、高貴な宮廷から庶民の市場に至るまで、紙扇子は祭礼、日常生活、そして伝統舞台芸術の場に常に存在してきました。今日、扇風機やエアコンの普及によって実用的な役割は一部変化したものの、この地の職人たちによって扇子作りは生きた文化遺産として大切に受け継がれています。かつてバオヴィンで名を馳せた木工美術や螺鈿細工などの数ある伝統工芸の中で、紙扇子作りは今なお存続している数少ない工芸のひとつであり、旧市街の真髄と古都のアイデンティティを守り続けています。

フエの風情が色濃く漂う名産品となったバオヴィンの紙扇子
写真:フエの風情が色濃く漂う名産品となったバオヴィンの紙扇子

2. バオヴィンにおける伝統的な紙扇子の制作工程

フエの伝統的な扇子作りは、忍耐、繊細な手技、そして工芸の真髄が結晶化したものであり、バオヴィン旧市街で何世代にもわたって守り継がれてきました。一本の扇子は単なる日用品ではなく、熟練した職人の手によって丹念に生み出される芸術作品です。

伝統的な紙扇子の主な制作工程

  • 扇骨の準備

厳選された丈夫な親竹を用い、防虫と柔軟性の向上のため、フォン川の水や塩水に3〜6か月間浸します。その後、職人が丁寧に削り出し、厚さわずか1〜2mmの均一で均整の取れた薄い骨に仕上げます。これらの骨を小さな釘や天然接着剤で束ね、丈夫でありながらしなやかで優美な骨組みを作り上げます。

  • 扇面の貼り付け

扇面には主に伝統的なド紙(ゾー紙)や薄い布が使われ、骨組みに合わせて丹念に裁断・貼り付けされます。わずかなシワひとつで製品全体が損なわれてしまうため、この工程には極めて高度な手技が求められ、職人の経験と繊細な審美眼が最も発揮される作業です。

  • 装飾と仕上げ

これは扇子に「魂を吹き込む」工程です。職人は繊細な手描きによって、フォン川、グー山、蓮の花、書道、古都の風景などの絵柄を描き込みます。色合いは落ち着いた温かみのあるトーンが多く、優雅でありながら深みのあるフエの精神を見事に表現しています。装飾後、自然乾燥させ、開閉が常に滑らかで均整が取れているか入念に点検します。

通常、シンプルな扇子でも仕上げるのに1〜3日を要し、精緻な絵柄が施された高級品ではさらに多くの時間がかかります。何より特別なのは、一本一本に職人の個性が宿っており、まったく同じものがふたつと存在しないという点であり、それこそが手仕事の扇子が持つ唯一無二の価値です。

バオヴィンで何世代にもわたり守り継がれてきた扇子作り
写真:バオヴィンで何世代にもわたり守り継がれてきた扇子作り 

3. 扇子作りの原料と受け継がれる手仕事の秘訣

バオヴィン旧市街の扇子作りの主な原料は、一見すると竹と紙というシンプルなものですが、その真の価値は何世代にもわたって受け継がれてきた加工技術と調合の秘訣にあります。地元産の竹はしなやかで防湿性に優れ、雨が多く湿度の高いフエの気候に非常に適しているため重宝されています。かつてはドの木の樹皮から作られるド紙(ゾー紙)や手漉き紙が伝統的に広く用いられていました。今日では耐久性や多様性を高めるために輸入紙や特殊紙を用いることもありますが、文化的な価値を損なわないよう、すべての工程で伝統的な手作業の手法が守られています。

特徴的な手仕事の秘訣:

  • 竹の処理:反りや虫食いを防ぎ、長年にわたる耐久性を保つため、竹を数か月間浸水処理します。
  • 天然接着剤:工業用化学薬品を使わず、樹液や米糊を使用することで、安全かつ環境に優しい仕上がりを実現しています。
  • 独自の絵柄:職人は代々受け継がれた顔料の調合や絵付けの秘伝の技を持っており、それぞれの扇子を唯一無二の芸術作品へと昇華させています。

これらの秘訣のおかげで、バオヴィンの扇子は何十年も美しく長持ちし、親しみやすい日用品としてだけでなく、フエの魂を世界中の旅人に届ける心温まるお土産としても愛されています。

現代のバオヴィン旧市街
写真:現代のバオヴィン旧市街 

バオヴィン旧市街の紙扇子は、単なる日用品にとどまらず、フエの深遠な文化の象徴でもあります。ベトナム全土、とりわけフエの文化において、扇子は穏やかでありながら芯の強いフエの人々の気質を映し出すように、気品と優雅さを象徴しています。宮廷舞踊やアオザイのフェスティバル、ユネスコ無形文化遺産であるフエの雅楽(ニャー・ニャック)の公演などにも頻繁に用いられ、伝統文化の魅力を引き立てています。

さらに、バオヴィンの扇子は過去と現在を結ぶ架け橋であり、訪れる人々に往時の貿易港の歴史を伝えています。多くの扇子には「福・禄・寿」といった吉祥を願う書道やフエの風景が描かれ、縁起の良い意味合いも込められています。地域の人々にとって、この工芸はアイデンティティを守り、手仕事の価値を次の世代へと継承するための大切な営みです。その長い歴史、精巧な手仕事の技術、そして深い文化的意義を持つこの工芸は、未来へと大切に受け継ぐにふさわしい尊い伝統です。

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