バイントゥアン(地元の方言では「バインスン」とも呼ばれます)は、ベトナム中部のクアンナム省やビンディン省を発祥とする伝統菓子です。歴史資料や地元の人々の語りによると、この菓子は古くから存在し、農村の素朴な暮らしやテト(旧正月)などの年中行事と深く結びついてきました。「トゥアン(Thuẫn=盾)」という名は、古代の盾に似た鋳鉄製の焼き型に由来しており、型には楕円形や梅の花の形をした窪みが並んでいます。

ホイアンの食文化において、バイントゥアンは深い文化的意味を持っています。焼き上げると春と富の象徴である梅の花のように花開くことから、幸運や繁栄の象徴とされています。クアンナムの人々は、ご先祖様へのお供え物や友人への贈り物としてバイントゥアンを焼き、飾り気のない温かい真心を伝えてきました。バイントゥアンは単なる伝統的なおやつにとどまらず、家族で赤々と燃える竈を囲んだ幼少期の記憶を呼び起こす存在でもあります。現代の洋風カステラと比べても、ホイアンのバイントゥアンは昔ながらの製法と自然由来の素材を守り続け、ユネスコ世界遺産である古都ホイアンの食文化の保存・継承に貢献しています。

